バスマップ作成ガイドライン(技術編)
Bus Map Guideline
原作成者 愉会三丁目 y3choeme@yahoo.co.jp
2010.8 全国バスマップサミット実行委員会編「バスマップの底力」収録
2017.10 Web公開用に一部修正(by 愉会三丁目)
このガイドラインは、全国バスマップサミット実行委員会編「バスマップの底力」(2010年 クラッセ)に収録されたものに、当方(愉会三丁目)の責任で若干の修正をしたものである。
全国バスマップサミット参加団体( http://www.rosenzu.com/busmap/)は、それぞれに試行錯誤しながら、それぞれのバスマップをより良いものにしようと努力してきた。互いの情報交換を通じて、先行事例の良い部分を取り入れ、改良を重ねてきた。そして、その過程で、「バスマップに載せるべき情報とは何か」「使える・使いやすいバスマップにするための表現上の工夫」など、制作のノウハウを暗黙のうちに共有するようになってきた。
このガイドラインは、こうした暗黙のノウハウを「見える化」することで、サミット参加団体の到達点を明らかにするとともに、利用者視点に立ったバスマップの普及とレベルアップにつなげていこうという思いから生まれたものである。
ガイドラインの語尾は、推奨度が強い順に「〜すべきである」→「望ましい」→「適当である」→「考えられる」→「留意(考慮)する」としてある。
このガイドラインが、バスマップを新たに作ろうとする、あるいは改訂しようとするバス事業者、自治体、市民団体などの方々にとって、指針となれば幸いである。
※ このガイドラインを引用する際は、全国バスマップサミット実行委員会「バスマップ作成ガイドライン(技術編) 2017年修正」と記載するとともに、可能であればこのページのURLと最終閲覧日を記載いただくよう、お願いいたします。
また、記載内容の充実やアップデートに関するご意見・ご提案がある方は、メール又はツイッターでご連絡をくださると幸いです。
バスマップ作成ガイドライン(技術編)2017年修正
1 基本的な考え方
1―1 このガイドラインの性格
- このガイドラインは、バスマップ作成に取り組んできた団体・個人が築きあげてきたバスマップ作成のノウハウのうち具体的技術に関する事項を、最大公約数的に集約して記述することにより、マップが満たすことが期待される標準(レベル)を明らかにしようとするものである。
最も大事なことは、それぞれの「まち」で、それぞれの「まち」のニーズを捉えたバスマップを作ることであり、このガイドラインは、バスマップ作成に取り組む団体や個人を拘束しようとするものではない。
1―2 作業に着手する前の留意点
- a バスマップは、バスの路線や停留所を図示することで、潜在的バス利用者がバスを利用して目的地に到達できるように支援するためのツールであり、利用者の視点に立って制作すべきものである。バス事業者の縄張り図では利用者視点とはいえない。
- b 正確であることは重要であるが、詳しさよりも、分かりやすさに重きを置くことが望まれる。また、見た目に美しく楽しいマップは、バスを利用してみようという気持ちを引き出す可能性がある。
- c 一枚のバスマップで全てのニーズ・要請に答えるのは無理である。まずは、「まち」の公共交通網が一覧できる基本図を作り、家庭の壁や冷蔵庫に、あるいは交番や公共施設の壁に貼って便利なものを作成することが望まれる。基本図ができていれば、観光者向け、障害者外出支援向け等の特定ニーズに対応するマップへの発展も容易である。
1―3 情報の現在日の明記
- バスマップには、掲載する情報の現在日を明記すべきである。
2 表現媒体の選択について
2―1 媒体の特性を踏まえた選択
- a 紙媒体での配布は、一覧性、仕上がりの美しさ、学校・町内会等への大量配布の容易さなどの点で優れている。
- b インターネットでの公開・配布は、更新・訂正の容易さ、制作経費の安さ、旅行者が現地に行かずに入手できるなどの点で優れている。
- c このように、それぞれの長所・短所があるため、様々な媒体により情報提供をすることが望ましいが、それが難しい場合には、こうした特性を踏まえて選択することが望まれる。
2―2 判型
- バスマップ全体の判型は、持ち歩き、屋外で拡げて見ることができる程度とすべきである。インターネット公開の場合は、印刷できる大きさとすべきである。
3 バスマップに盛り込む情報について
- バスマップの紙面またはバスマップを掲載するウェブサイトには、バス路線・停留所等を図で表現する部分(以下「バスマップ本体」という。)に加えて、次のような情報を載せることが考えられる。
3―1 系統一覧
- バスマップ本体だけでバス路線の起点・経由地・行先等を正確につかむことは意外と難しいので、理解を助ける情報提供として、系統一覧を作成・掲載するべきである。
系統一覧には、系統番号・起点・主な経由地・終点・運行事業者名のほか、運行頻度(回数・間隔)や始終発時刻を掲載することも考えられる。ただし、量が膨大となりがちなので、持ち運びの便を悪化させない量とする工夫が望まれる。
3―2 高速バスの路線・系統案内又は高速バス路線マップ
- 高速バス等のうち「まち」内での移動手段とならないものについては、掲載は必須ではないと考えるが、公共交通の総合的な情報提供として、バスマップに載せることは有用と考えられる。なお、掲載する場合には、往々にして市内路線と異なる時期に新設・改廃があることに留意する。
3―3 主要ターミナルの乗り場・降り場案内図
- 主要な駅前・中心繁華街の最寄り停留所など、利用者が多く停留所が複数に分かれている場所については、目的のバスに迷わず乗れるために、案内図の掲載が望ましい。その際、降り場が駅から離れていてわかりにくいこともあるので、降り場の案内も載せることが望まれる。
3―4 バスの乗り方の案内
- 地域・事業者・路線・時間帯によって、乗り方(前のり・中のり)や運賃の支払い方(先払い・後払い)が様々であるため、紙面が許せば載せることが望ましい。しかし、例外的取り扱いが多く、詳細に書き過ぎると「バスは分かりにくい」とのマイナスイメージを与える恐れがあることに留意する。
3―5 運賃、定期券・回数券、ICカード・バスカード、フリーきっぷなどの案内
- 運賃が分からないことがバス乗車の心理的なハードルとなっていることも多いため、紙面が許せば載せることが望ましい。特に、利用できる交通系ICカードの種類やフリーきっぷ、幼児無料となる人数などお得な制度の情報提供は、利用促進につながる可能性がある。
- しかし、詳細に書きすぎると「バスは分かりにくい」というマイナスイメージを与えることに留意する。
3−6 時刻表
- 時刻表にはマップが付属すべきであるが、マップに時刻表が付属すべきとまでは言えない。
- 時刻表は、頻繁に変更され、かつ、量が膨大となるため、ある程度以上の規模の「まち」においては、バスマップ単体で発行することが望まれる。
- なお、例えばA3用紙両面にバスマップと時刻表が掲載できる程度の規模の「まち」であれば、両方載せたチラシを作るべきである。
3―7 索引
- 主要施設について、その最寄り停留所の名称及び当該停留所に停車する系統の番号並びにバスマップ上での位置を示す索引は、公共交通を利用した目的地への到達を支援するため、紙面が許せば載せることが望ましい。
- 全ての町丁名やバス停留所の索引の掲載については、あっても良いが、細かい活字の羅列された表が見る者に与える影響に留意する。
3―8 運行事業者の問合せ先
- バスマップでは対応しきれない最新かつ正確・詳細な情報(路線・運賃・時刻等)を求める利用者の便を考慮し、運行事業者の問い合わせ先(事業者ウェブサイトのURL、路線案内に対応する電話番号など)を載せるべきである。ウェブサイトの場合は、事業者公式サイトにリンクを張る等の対応が考えられる。
3−9 その他
- 制作団体のポリシー、公共交通利用促進の取り組み事例、広告などを載せることが考えられる。
- また、書店流通を行う場合は、ISBNコード及びバーコードを載せるスペースを確保することに留意する。
4 バスマップ本体に図示する事項及び表現の方法について
4―1 背景に地図を用いることについて
- a 「まち」の中の移動は、目的地が同じでも出発地が異なれば目的地最寄り停留所が変わることも多く、「面的」な情報が求められる。このため、バスマップは、方角や縮尺を原則として正確に描くことが望まれる。
- b 背景に地図を用いることは位置関係の理解を助ける有効な手法である。ただし、見やすさを考慮し、背景地図の情報量は絞り込むべきである。なお、国土地理院の地形図は、許可を得れば無償で複製使用できる。
4―2 バスマップに載せるエリアの範囲選択について
- a 「まち」の範囲を一覧できる図をメインの図とし、必要に応じ、都心部など稠密な地域を表す拡大図を設けるべきである。メインの図の縮尺は、路線の稠密度や活字の大きさにもよるが、おおむね1/2万〜1/5万程度で制作することが適当と考えられる。郊外部だけの図は、より小さい縮尺で支障ない場合も多い。都心拡大図の縮尺は、背景に載せたい「まちあるき」情報の量も考慮しながら判断することが適当である。
- b 市街地が広大な大都市圏などでは、一枚の紙に収まりきらないため、エリアごとに区分した図、道路地図のようなメッシュ方式で作図することが考えられる。
- c 市町村ごとにバスマップを作る場合であっても、市町村の境を越えたとたんに情報を非掲載とすることは避けるべきである。路線が通じているということは市町村を越えた旅客流動が期待されているということであり、少なくとも越境する路線については、図幅の許す範囲で隣接市町村内の停留所等も掲載することが望ましい。
4―3 掲載するバス路線の種類について
- a 地域内の移動に使える公共交通(乗合方式のもの。バスのほか、鉄道・軌道、フェリー・渡船等を含む。)は、運営事業者にかかわらず載せるべきである。バス協会非加盟事業者の路線を載せないとか、コミュニティバスを載せないといった取捨選択はすべきでない。
- b ただし、デマンド方式など運行経路の図示が困難な形式の乗り物については、見やすさを踏まえ別図とするなどの工夫が考えられる。
- c 利用者を特定の者に限っているもの(工業団地送迎バス、施設送迎バス、福祉バスと呼ばれるものの一部など)は、それぞれの実態を踏まえて判断することが適当である。
- d 全ての路線を載せることにこだわりすぎないほうがよい。バス系統の中には、運行回数が日に1回以下のものなど、実用上の存在意義が疑われるものもあるからである。また、運行頻度が一定以上のルートに掲載対象を絞って、シンプルなマップを作ることも考えられる。
- e 高速バスについては、3―2参照。
4―4 系統・路線を表現する線の表現について
- a 起点や主要経由地が共通する複数の系統がある場合は、これらをまとめた系統群(路線群)ごとに1本の線で描くことが、見やすさの点で優れている。系統1つごとに1本の線で描く場合、中心市街地などで線の本数が多くなりすぎ、背景情報も隠れてしまうほか、運行頻度情報の表現が難しい。
- b 複数の事業者が運行する「まち」では、事業者ごとに色を使い分けることが望ましい。ただし、事業者ごとに1色・1本の線で描ききることは、図はシンプルになるものの、かえって分かりにくくなることも多い。路線網が複雑な場合には図内に付記された系統番号を追いかけなければ利用すべき運行路線とその経路が理解できなくなるためである。こうした場合には、一事業者に複数の線色を割り当てることを検討すべきである。
- c 路線の利便性を大まかに把握するためにも、運行頻度を線の太さ等で表すことが望ましい。系統一覧に運行回数を記すことも一つの方法である。
- d 日祝日に運休する路線・区間が多い「まち」においては、そうした路線・区間を破線で表現することも有効である。
- e 色については、弱視の方に配慮した選択をすることが望まれる。重要でない情報を淡色とする手法も考えられる。また、事業者において路線や運行方面別のラインカラーを設定し方向幕等で表示している場合には、これを踏まえた色の選択とすべきである。
4―5 系統・路線を区別する番号について
- a 事業者が、系統番号・行先番号等を付番し車両や停留所等に表示しているときは、その番号をバスマップにおいても用いるべきである。
- b 系統番号・行先番号等が府番されていない路線がある場合には、バスマップで独自に路線名や系統番号を付与することも、分かりやすさを高める効果があると考えられる。ただし、バスマップ独自に付与する番号については、バス車体等に表示されている番号であると誤解されないよう、その旨バスマップに明記することが求められる。
4―6 停留所について
- a 全停留所の記載を原則とすることが適当である。ただし、全県図や全体概要図など路線網の概観をつかむための図については、むしろ主要な停留所に限ることが望まれる。
- b 急行系統などがある場合は、その停留所に停車するか否かが分かるよう、表現を工夫すべきである。
- c 難読あるいは誤読の可能性が大きい停留所には、ふりがなを付すことが望まれる。また、主要な停留所の文字を大きくするなどの工夫も考えられる。
- d 停留所名は、誤解のおそれがない範囲で省略形を用いることも許容されると考えられる。例えば、多くの場合において「○○前」の「前」は省略して支障ないが、「○○中学校前」を「○○中」と略すことは「中」が「上・中・下」の「中」であると誤解をするおそれが少なくないため適当でない。
- e 始終着・折り返しの便がある停留所は、その旨が分かるように表現することも考えられる。●と○、◎を使い分けるなど。
- f 往路・復路の片方向しか停車しない停留所は、その旨が分かるように表現すべきである。→、▲、その旨の注記など。
4―7 背景地図に載せる情報について
- a 背景地図の情報は、位置関係の理解を助ける情報(主要河川・道路など)、まちあるきに有用な情報、その他制作者が掲載にこだわる情報に、情報量を絞り込むことが望まれる。
- b aのまちあるきに必要な情報とは、多くの人が目的地とするかどうか、あるいは地域のランドマークかどうかという観点が考えられる。例えば、市役所・文化ホール等の公共施設、病院、大学、主要観光施設、百貨店やショッピングセンター等は通常必要で、消防署、ガソリンスタンド、コンビニエンスストア等は通常必要ないと考えられるが、縮尺や、それぞれの事情を踏まえ判断することが適当である。
- c これらは、背景に地図を用いない場合でも、参考とすることが望まれる。
5 最後に
- 1から4までにおいて掲げた事項以外にも、実際にバスマップの作成作業を開始すると、様々な事務的な難題が発生する。
例えば、@必要経費の確保、A路線等に関する情報の入手の方法、B自前でやる作業と外注する作業の振り分け、Cバス事業者や行政とのつきあい方及び協力の獲得、D頒布作業、E売上金の回収その他経理、F在庫の管理などである。
また、インターネット上の経路検索サイトやアプリ、位置情報(GPS)との連動など、バスマップというコンテンツをベースにすることで、公共交通での移動を支援する、よりハイレベルで直感的に使える仕組みも作れると思われる。
こうした難題も乗り越えて、各地でバスマップづくりの運動が活発化し、一定水準以上の品質を備えたバスマップが広く整備されていくことを願う。
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